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紅の砂漠でキム・デイルが目指したもの。GTAへの憧れ、RDR2との邂逅、そしてAAAへの挑戦

   

「紅の砂漠」は何を目指したのか。どうして今の形になったのか。

開発の指揮を執った「キム・デイル」氏の発言とPearl Abyssの成り立ち、韓国ゲーム業界のポジションを確認してみよう。

キム・デイル氏とPearl Abyss

Pearl Abyssが誕生したのは、キム・デイル氏が作りたいゲームを作るためだった。

それまでNHN社でPCオンラインアクションゲーム「C9」の開発に携わっていたキム・デイル氏は、2009年には韓国ゲーム大賞で大統領賞を含む5部門を制覇し、史上最年少の優秀開発者賞を受賞。名実ともにスター開発者の頂点に達した。

そんな彼がNHNを去り、Pearl Abyssを自ら立ち上げる目的は明確だった。

「流行に流されず、自分が作りたいゲームを作る」 (Business Postより)

当時はモバイルゲームブームの真っ只中だったが、キム・デイル氏はPC向けのコアなゲームを作ることを選択したのである。

彼に特に大きく影響を与えたのはRockstar Gamesの作品、「Grand Theft Auto(以下GTA)」だった。

2012年、4Gamerによる黒い砂漠に関するインタビューで、キム・デイル氏は「オープンワールドのゲームを作ろうと思ったのは,Rockstar Gamesが作った「Grand Theft Auto」の影響が大きいですね」と明確にリファレンスを述べている。

つまり、Pearl Abyssはまさに「黒い砂漠」を作るために発足した会社だったのだ。

発足当時の職員数はわずか7人。設立直後から自社エンジン開発を最優先課題として着手。

そして、2014年には韓国で、2015年には日本でMMORPG「黒い砂漠」のサービスが開始された。

「黒い砂漠」はMMORPGながらも高いアクション性を持つ、ほぼ完全なPC向けオープンワールドゲームとして誕生した。

C9などのゲームプレイ映像を見るとわかるが、黒い砂漠の戦闘はC9のエッセンスを引き継いでいる。そして、GTAにあこがれたキム・デイル氏は、広大なフルオープンワールドを実現した。

紅の砂漠とRed Dead Redemption 2

黒い砂漠はコンソールバージョン、モバイル版なども登場したが、Pearl Abyssの2番目の作品「紅の砂漠」が韓国G-Starで公に発表されたのは2019年のことだった。

キム・デイル氏が慣れ親しんできたMMORPGとして発表され、名称からも「黒い砂漠の続編か」と期待された。

実は、この前にキム・デイル氏に大きく影響を与えるゲームタイトルがリリースされることとなる。

Red Dead Redemption 2だ。

元々Rockstar Gamesに影響を受けて開発を始めた黒い砂漠ということもあり、キム・デイル氏自身もRed Dead Redemption 2を気にかけていた。

2017年に韓国メディアのインタビューでも「Red Dead Redemption 2を楽しみにしている」と発言している。

そして、2018年、Red Dead Redemption 2(以下RDR2)がリリースされた。筆者は以下の点を特に高く評価しているが、これらの点をキム・デイル氏も感じ取ったことだろう。

  • 広大なオープンワールド
  • リアリティ溢れるグラフィック
  • 様々な動物たちとの出会い、捕獲や屠殺
  • 本を模したゲーム内のカタログメニュー
  • 重厚で自然な馬の動き
  • 説得力がある細やかなキャラクターアニメーション

そして紅の砂漠は、2020年のThe Game Awardsで「オープンワールドアクションアドベンチャー」として再発表し、ジャンル転換を表明した。

紅の砂漠の総括プロデューサー陣はインタビューで、「紅の砂漠で表現したいものを突き詰めたとき、伝統的なMMOの形式よりも、ナラティブやシナリオをより深く表現できるジャンルにすべきだという判断に至った。黒い砂漠でMMOを運営してきた経験を踏まえ、シングルプレイとオープンワールドを楽しめる新しい形が最適だと考えた」「国内ゲーム会社で披露する初のAAA級ゲームになると思われる。それだけ多くの方々の応援を受けて最高のゲームになるのが目標だ」といった回答を行った。

2020年に方針転換を行った際にはまだマルチプレイについても検討されていたが、リリースされた現在はシングルプレイ作品として仕上がった。


筆者は先行プレイから続けて100時間以上は紅の砂漠をプレイしているが、ゲームのフィーリング、表現したかったものはRDR2を感じさせる部分が多い。

ドロップアイテムを拾う際のRDR2の操作性の悪さ、面倒くささも引き継いでしまっているのは残念だが、そこは黒い砂漠由来の「ペット」による自動拾いで補っている印象だ。

黒い砂漠まではキーボード&マウスを前提とした、PCゲーム向けのコントロールフォーマットでゲームを作ってきたが、紅の砂漠はPearl Abyssとして初めての「ゲームパッド向け作品」ということもあって、操作系やUIの経験値が不足しているのは特に不思議ではない。ここから経験を積んでいってもらいたい部分である。

黒い砂漠由来の「ハードコアな謎解き」

MMORPG「黒い砂漠」では過去に、世界中のプレイヤーが同時に謎を解くゲーム内イベントが行われた。これはかなりハードコアで、断片的な情報から広大なオープンワールド上に落とされた一滴のしずくのような答えを探すイベントとなり、賛否両論だったが盛り上がりを見せた。

また、その後に実装された黒い砂漠のマルチプレイコンテンツ「アトラクシオン」でも、ソロあるいは複数人で協力して解く謎解きが用意されており、こちらは先のイベントより割とマイルドになった印象だった。

そして、紅の砂漠の「アビス」である。黒い砂漠の謎解きの精神的な後継であることを感じられる、なかなかコアな内容になっている。

まず、とにかくヒントが少ないこと。特に「謎はこのように解くことができる」という基本情報すらあまり与えようとしたくないことがわかる。だが、与えられた情報を駆使すればたどり着ける。

これを「不親切な実装」と取るか「開発者からの挑戦」と取るかはプレイヤー次第だ。

黒い砂漠では翌週にはなんらかのパッチを出す非常に素早い開発体制を整えてきたので、今後市場の反応を見て結構ダイナミックにゲームの仕様を変えてくる可能性はあるだろう。

オンラインの「渇き」からオフゲーの「満足度」へ

紅の砂漠をプレイしていて思い出したのが、4Gamerのインタビュー記事で、Nexon Games代表取締役のパク・ヨンヒョン氏との対談だ。パク氏は「グローバルと違って、韓国ゲームがちょっといびつなゲームが多い」、「世界から見て面白いゲームを作れるゲーム会社として認知されたい」といった形で、韓国ゲームの現状と今後についてを語っていた。

キム・デイル氏も同じような志を持っている。2014年のインタビューでは、「競争力を備えるためにはオンラインゲーム開発会社は「革新的なゲーム」を開発するしかない」として、GTA5を例に挙げた。「中国オンラインゲームのクオリティが上がっており、そんな会社と競争できなければMMORPG開発は無意味だと思う」とも述べた。

そう述べてからのオフラインゲームへの変更である。

「黒い砂漠」などの基本無料オンラインゲームと、パッケージ作品である「紅の砂漠」において、設計思想は全く別のものが求められる。

オンラインゲームは収益を後から回収するために「プレイヤーの渇き」を意図して作ることが重要だ。ちょっと物足りない、不便な点をフックとして、時短要素や不足分を売るのである。

一方、パッケージゲームは開発予算の中でトータル満足度を何より重視しなければならない。

その、トータル満足度を惜しみなく注ぐノウハウが、Pearl Abyssにとって経験値不足であろうことは予想に難しくない。

Pearl Abyssとしても海外作品から学ぶところは多かったはずで、その結果良くも悪くも「RDR2っぽいもの」になっているのだろう。

紅の砂漠は、Pearl Abyssがそういったサービス精神や、AAAに求められるクオリティを学ぶための作品にもなるだろうし、黒い砂漠で培った素早い修正対応によって精力的にパッチが出れば、やはりリリース直後は不評であったサイバーパンク2077のような変身を遂げる可能性は十分にあると思う。

「親切すぎるゲーム」へのアンチテーゼ

ゲーム序盤に訪れるアビスの謎解きがわかりにくい点が話題になっている。ゲームの基本となる「電力的なものを通す」ロジックを学ぶ部分で、筆者も苦労した。

画面下部には簡易ガイドとして「ぶらさがって」と示されている正解は「ぶら下がる」という表現が適切かどうか怪しい形でクリアすることになる。

また、もう少し進んだステージでも「え、これでいいのかな?」と思うようなクリア方法のステージがあったりする。

そういう部分は作りが甘いということもできるけど、キム・デイル氏があえてやりたいことだった可能性もある。

最近のゲームはとにかく謎解きが謎というほど悩まない設計になっている。

気にしてほしい部分を赤点で光らせ、そこを押すだけで進んでいくようなところがある。

筆者もそういうゲームも楽しむが、やはり濃密なゲーム体験、頭をフルに使うゲームとしては物足りなさは感じる。

キム・デイル氏もそうだったのではないだろうか。

自分が持っている要素すべてを見直し、整理し、頭で考え、目的を達成していく体験を届けたかったのではないだろうか。

そんなところも、紅の砂漠の魅力の一つだとおっさんゲーマーは思うのである。

 


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